シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 上った時点で3階の状態が分かると思ったのに、そこは様子が違っている。

 階段の先は廊下のようになっていて、ドアが1つだけ見えた。

 時計塔の雰囲気に合わせてか一見古ぼけた木製のようにしか見えない。

 でもよく見ると真新しくも感じる。

 もしかしたら、リフォームしたという5年前に変えたのかもしれない。


 ドアに近づくと、中に誰かいるのか話し声らしきものが聞こえた。

 一瞬躊躇って、わたしは少しだけドアを開ける。

 気づかれたなら、それはそれ。

 気づかれなかったらまた立ち聞きすることになってしまうけれど、このまま何も分からない状態で戻るなんて出来ない。


 勇気を出して来たのに、無駄足になるのは嫌だ。


「また遊びに来てくれて嬉しいわ」

 クスクスと笑う女の子の声が聞こえる。

 誰?

 と思うと同時に、聞き覚えのある声が女の子の言葉に応えた。


「はぁ……遊んでるわけじゃねぇんだけどな……」

 うんざりしたようなその声は、この数日毎日聞いている声。

 わたしに対してだけ甘く妖しく響かせるその声の主は、紛れもなくギンだった。


 ギン?
 ……そういえば、今日は学校に来ると言っていたっけ。

 会うことはないだろうって言っていたけど、ここに来るからだったのかな?


 そんな疑問を抱きながらわたしはそのまま2人の会話に耳を傾けた。
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