シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「ふふ……もっとイタズラしてもいいのよ? イタズラを跳ねのけた後は必ずあなたが様子を見に来てくれるんですもの」

 とても嬉しそうな女の子の声は、部屋の奥の方から聞こえてくるみたいだ。


「まあ、そりゃあな。お前が消えてくれてるなら目的のものが手に入る」

 淡々とした声音の中に、わずかな不満をにじませたギンの声。

 彼はもっと手前、ドアに近い方にいるみたいだ。

 女の子と対面している様子だから、こちらには背を向けているのかもしれない。


「なあ、キョウ? さっさと消えてくれねぇか?」

 女の子になんてひどいことを言うのかと思ったけれど、彼女の方は楽し気に笑うだけで傷ついた様子は全くない。


「やだシロったら、嫌に決まってるじゃない」

 ……シロ? ギンじゃなくて?

「それに私が消えたら金多が悲しむでしょう?」

「はぁ……その金多が一番の問題なんだよ……」

 まるで話の通じない人の相手をしているかのようにギンはうんざりした様子でため息をつく。


 キョウと呼ばれた女の子とギン。

 2人の関係がイマイチ掴めない。

 ギンは彼女に淡々と消えてくれと言うし。

 キョウはそんなひどいことを言われても楽しそうにギンに絡む。
< 141 / 289 >

この作品をシェア

pagetop