シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「シロ、忘れ物」

 ギンに少し似ている妖艶な微笑みをその幼さが残る顔に浮かべ、一点を指差していた。

 その先にあるのはリンゴ。

 そう言えば、ギンは前回も下りてくるときはリンゴをかじっていたっけ。


「ッチ」

 舌打ちしたギンはわたしを掴んでいない方の手でリンゴを取ると、振り返りもせずに部屋の外に出る。

「またね、シロ」

 彼の代わりに振り返ったわたしが見たのは、ゾクリとするほど妖しく微笑むキョウの笑顔だった。

***

 カツン、カツンと金属製の階段を下りる足音だけが響く。

 2階部分も通り過ぎ、螺旋階段を下りている途中でやっとギンが口を開いた。


「……どうして上ってきた? ここには来るなと言ったはずだ」

 苛立ちを含んだ硬い声。

「……ごめんなさい」

 言われていたし、ちゃんとわたしもその言いつけを覚えている。

 なのに来てしまったわたしが悪いのは明白なので、そこは素直に謝った。


「でも、ギンのことをもっと知りたかったの……」

 そう言うと、ギンはピタリと足を止め思わぬことを言われたような驚きの表情でわたしを見る。

 その瞳が揺らめいたと思ったら、何かを耐えるかのように顔を歪めてまた前を見た。
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