シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 魅了されているだけじゃないかとか、流されてるだけじゃないかとか。

 色々考えてしまっていたけれど、今ではそのどれもがどうでもいい。


 話を聞いて、ギンのことを信じられると思った。

 確信が確信のままで終わって、嬉しいと感じる。


 信じて大丈夫なのだと、自分の中で彼に対する不安材料がなくなった途端理解する。

 惹かれる心に身を任せると、わたしの気持ちなんて明白だった。


 ギンが好き。


 7年前のあの日から、ずっと見守ってわたしを想ってくれている人。

 強い想いに戸惑うことはあるけれど、嫌だと思ったことはない。


 この想いを……ちゃんと返したいな。

 全部を受け止められるかは自信がないけれど、それでもギンの思いに応えたい、好きだと思ってくれている心を返したい。

 そう思った。


「……雪華?」

 覗き込んでいた彼の眉が寄せられ訝しがられる。

 ハッとしたわたしは慌てて「えっと、多分大丈夫」と答えた。


 でもギンは聞いて欲しい事があったようで不満そうにする。

 そのわずかにへの字に曲がった唇が開いた。

「……名前、聞かねぇの?」

「え?」

 聞きたいことは一通り聞いたと思って大丈夫と言ったけれど、ギンはそれが少し不満だったらしい。

 ムスッと顔を歪めてから、そのままチュッと軽く唇を吸われた。
< 167 / 289 >

この作品をシェア

pagetop