シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「は? え? 何? あのときそんな話してたの?」

「してたんだよ。義姉さんは何があったのか知らないけどボーッとしてたから聞こえてなかったんだね」

 まあそりゃあ、突然ファーストキスを奪われてフリーズしてたんだもの……。


「俺、嬉しかったんだ。桔梗母さんにほとんど見向きもされないで戻って来て……でも兄さんにそう言われて……。少なくとも兄さんは俺を必要としてくれてるんだって分かった」

「眞白……」

「俺にとってもあのときすでに義姉さんは大事な家族だったし、なんて言うんだろう……大切な使命を受けたような……そんな気持ちになってたんだ」

 大げさな、と思ったけれど口には出さなかった。

 きっと眞白にとっては大げさなことではないんだろうなって、察したから。


「うん、だから本当に良かったよ。兄さんと義姉さんが恋人同士になってくれて」

「……恋人……?」

 意識していなかった言葉に思考が一瞬止まる。


「何で疑問形なんだよ? 兄さんは当然義姉さんのこと好きだし、義姉さんも兄さんのこと好きならそうなるんじゃないの?」

「そ、か……。そうだよね……」

 思いが通じ合ってるってギンも言っていたし、わたしもその通りだと思う。

 そして思いが通じ合っているのなら、それは恋人と言ってしまっても過言(かごん)じゃあない。


 でもハッキリそう言ったわけじゃなかったから、恋人だと――彼氏なんだと言って良いのか自信がなかった。

 それを確かめたいがために、わたしは今晩も彼の部屋へと入ってしまうのだった。
< 174 / 289 >

この作品をシェア

pagetop