シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 目元に、頬に、耳たぶに。

「んっ……ギン……」

 そして唇に、まずは触れるだけの優しいキス。


 再会したばかりの頃の毒のような苦しいキスは何だったのかと思うほどに、今のギンのキスは優しい。

 たまに強く求められるけれど、リンゴの味がしないときは苦しくはない。


 どうしてなんだろう? と考えているうちに、キスは深くなっていった。

「んっふぁ……あ、まって」

「ん……なんだよ」

 止められて不満そうな彼に、わたしはちゃんと伝える。


「わたし、今日こそは自分の部屋で、1人で! 寝るから」

「……」

 ちゃんと“1人で”を強調して口にする。

 恋人同士でも、彼氏彼女でも、流石にこのまま毎晩同じベッドで眠るとかはありえない。


「……いいっつーまで抱かねぇけど」

「それでもダメ」

「……お前抱き枕にしとくとよく眠れんだけど」

「なおさらダメ」

「……どうしても?」

「どうしても」

「……」

 いくつか問答を繰り返し、最後にはギンが黙った。


 分かってくれたかな?


 そんな期待を込めて見上げていると、フゥと軽く息を吐きもう1つ聞かれる。

「……でも、キスはまだやめねぇぞ?」

「うっ……まあ、もうちょっとなら……」

 キスを途中で止めてしまった自覚はあるし、わたしも……正直なところもう少しは触れ合っていたい。
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