シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 わたしの答えを聞いたギンは、妖しく目を細め艶美に笑った。

「っ!? あっ!」

 ギンの顔を一番魅力的に見せるその表情に息を呑むと、次の瞬間には一緒にベッドに倒れ込んでいた。


 でも、押し倒されたわけじゃない。

 わたしを抱きしめたままギンが後ろに倒れただけ。

 だから、今はむしろわたしがギンの上に寝そべっている形になっている。


「じゃあ、雪華の方からキスしてくれ。……あと、俺はやめられねぇからお前がちゃんと止めろよ?」

 まるでゲームでもするかのようにギンは楽しそうだ。

「なっんで……」

 自分からキスをするというのも、今の体勢も恥ずかしくてどうしていいのか分からなくなる。

 せめてギンの上から下りようとジタバタするけれど、腰の辺りをしっかり抱きしめられていて動けない。


「せーっか? 彼女からのキスはしてくれねぇの?」

 誘うような、挑発するような眼差し。

 甘えるような、ねだるような口調。

 見たことのないその表情と声音が、彼女のわたしだけに見せるもののようで……。


「っ!」

 キュン、と胸に喜びが広がった。


「……うまく、出来ないよ?」

 どちらにしろわたしからキスをするまで離してくれなさそうだと思って、顔を近づける。

 わたしからしたことのあるキスは触れるだけのもの。

 でも、多分今はそれだけじゃダメなんだろうな。
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