シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「いいから、してみろよ……口、開けろ」

 甘えるような言葉の後の命令に、ギュン、と胸が締め付けられるような感覚がした。

 命じられるがままに口を開けて彼の口を塞ぐようにキスをする。

 怖気づくわたしの舌に、ギンが誘うように自分のそれを絡めてきた。


 でも、ドキドキと鼓動が早くてすぐにわたしの息が続かなくなる。

 一度ちゃんと呼吸をしたくて離れると、それを許さないとでも言うようにギンの唇が追って来る。

「はっんぅ」

 体勢的にわたしの方が逃げやすいはずなのに、逃げ切れないのは何故なんだろう。


 それでも今の状態はギンにとってキツイのか、いつもより早く唇は離れていく。

 そのことにホッとして呼吸を整えようとしたのも束の間。

「……もどかしいな」

 そう呟いたギンはぐるりと体を反転させる。


「え?」

 気づいたときには、いつものようにギンが上になっていた。

 さらりと揺れるギンの前髪。

 黒髪の中にひと房入っている銀髪が、部屋の明かりを受けてわずかにきらめいた。

 そこからのぞく一対のアンバーの瞳。

 オレンジがかった赤みのある茶色の目が、愛と欲の情を込めてわたしを見下ろしていた。
< 178 / 289 >

この作品をシェア

pagetop