シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「聞いていたならある程度事情は分かってるんでしょう? だからお願い。今はあたしの家に来て」

「でも、わたしやることが……それにわたしはギンの――」

「お願いよ。あなたが本当はあの人の一番だってのは知ってる。でも、今はまだダメなの。“あれ”をどうにか出来るまで……じゃないと、金多は分かってくれない」

 “あれ”とはキョウのことだろう。

 話の流れからしてそれ以外に考えられない。

 優姫さんもキョウの存在を知っているんだ。


 でも、そこまで必死になるくらい優姫さんは金多くんを思っているのに……。

『別にいいんじゃないかな?』

 わたしが金多くんの家に行ったら優姫さんに誤解されちゃうんじゃないかと言ったとき返ってきた言葉。

 まるで優姫さんを大事に思っていないような言葉を思い出し、思わず顔をしかめた。


「何でそこまで金多くんにこだわるの? 優姫さんがそこまで思ってあげるような人なの?」

 優姫さんばかりが必死になっている様子に、金多くんへの怒りを覚える。

 でも……。


「金多を悪く言わないで!」

 優姫さんは本気の怒りをその瞳に宿し、声を荒げた。


「金多は、昔からあたしの王子様なの。優しくて、いつもあたしのことを考えてくれていた……。今は“あれ”のせいでおかしくなってしまったけれど、“あれ”さえいなくなればきっと元の金多に戻ってくれる」

 だから、それまでの間はあたしの家に来て。
 と、懇願される。
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