シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「どうする? 大人しくついて来るか、痛めつけられて連れ去られたいか、選ばせてやるよ」

 その選択肢はなんの救いにもならない。

「言っとくけど、俺ら女でもためらいなく顔とか殴るからな?」

「ひっ!」

 優姫さんは目に見えて震え始める。

 わたしも、手が小刻みに震えているのが自分でも分かった。


「……分かった。……ついて、行きます……」

 選択肢なんてあってなきもの。

 どちらにしろ連れて行かれてしまうということなんだから。


 わたしは優姫さんに突然引っ張られてきたからスマホも持ってきていない。

 優姫さんは持っているだろうけれど、彼らが助けを呼ぶのを黙認してくれるとは到底思えない。


 こうなったら、三つ子がわたしがいなくなったことを早めに気づいてくれるのを期待するしかない。

 いつもPC画面から目を離さずキーボードを打つ3人の姿を思い出す。


 ……お願い、早く気づいて。


 4人の男に囲まれて歩きながら、心の中では必死にそう願っていた。
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