シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「ああ、お前の言う通り一応探してみてよかったぜ。相変わらずお前の勘は鋭いな」

 気安そうに話しているけれど、少し“おだて”を入れたり、言葉の端々に杉浦への恐怖が見え隠れする。

 でも杉浦はそんな態度を取られるのが普通なのか、全く気にした様子もなく中嶋に視線を移す。


「ご苦労だったな、行って良いぜ」

「ああ、じゃあ終わったら教えろよ」

 そう言って中嶋はわたしを置いて部屋を出ていってしまう。

 杉浦と2人きりになるのが恐ろしくて、中嶋の存在ですらいて欲しいと思ってしまった。


 ドアが閉められると、またそのほの暗い目がわたしを捕らえる。

「っ!」


 まさに、蛇に睨まれたカエル状態と言うべきなのか……。

 硬直してしまったように動けなかった。


「さてと……」

 立ち上がった杉浦は、ゆっくりわたしに近づいてくる。

 目の前に立ち、その(くら)い目に見下ろされて今にもへたり込みそうになった。


 怖い、逃げたい。
 でも動けない……。


「あいつには三つ子や手下を奪われた恨みがあるんでな。こっちとしても落とし前つけねぇと」

 そう言って(わら)うと、グッと胸ぐらを掴まれた。

 持ち上げられ、かろうじて爪先立ちが出来るけれど辛いし苦しい。
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