シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「キスマークつけるくらい執着してんのに抱かれてねぇ? ま、それならそれでもいいさ。そんなに大事にしている女をボロボロにされたら、あいつはどんな顔をするんだろうなぁ?」

 それはそれは楽しそうに、杉浦はその昏い目に愉悦を宿らせわたしを見下ろす。

 抵抗するヒマもなく両手を頭上でひとまとめにされ、襟元をグッと引かれた。

 ギンの所有印が、よく見えるように。


「さぁて、まずはこの印を俺のものに変えてやろうか。分かりやすいように、他にもいくつかつけてやるよ」

「っぃや!」

 抵抗の言葉はむなしく消える。

 片手で掴まれている両腕も、圧し掛かられている両足も全く動かせない。

 出来ることと言ったら顔を背けることと、抵抗の意志を言葉にすることだけ。

 でもそれも恐怖で喉が引きつってまともに声が出せない。


 結局、顔を背けて触らないでと願うしか出来なかった。


 杉浦の髪が首元に落ち、生ぬるい息が鎖骨の辺りにかかる。

「や……」

 やめて、と願いながらも与えられる気持ち悪さを予測して耐える覚悟を決めたときだった。


 ドガアァン!


 倉庫を揺らすような大音量が響き、流石の杉浦も「なんだ!?」と頭を上げる。

 バイクのエンジン音も聞こえ、誰かがバイクごと倉庫に乗り入ってきたんだと分かる。
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