シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 先に台所に買い物袋を置いて奥の部屋に向かうと、薄暗い部屋の中で義父さんが座っていた。


 今日は仏壇の前ではなくて、部屋にある座卓の方に座っている。

 座卓の上にはお母さんの写真と大量のお酒の缶やビンがあった。


「義父さん? 寝てるの?」

 近づいても動かないからそう言って肩を揺すってみる。

「んう? ああ……」

 どうやら本当に寝ていたらしい。


「もう、こんなに飲んで……お水飲んで、ちゃんとベッドで寝て?」

 仕方ないなとため息をついて、義父さんが立つ手伝いをする。


 お母さんの月命日は必ずお酒を飲んでいたから、この光景は予想出来た。

 ただ、今日は本当に量が多い。

 せめてこれ以上飲ませないようにしなきゃ。


「水? ベッド……? ああ、そうか。ベッド行こうな、沙奈」

「え?」

 意識がハッキリしないのか、義父さんはお母さんの名前を呼んでわたしの肩を掴んだ。

 その手の力が、嫌な感じだった。


「義父さん? 何言ってるの? わたし雪華だよ?」

「ああ、分かってるよ雪華。お前の中に、沙奈はいるんだろう?」

 うつろな目がわたしを映す。

 そこには確かにわたしの顔が映っているのに、義父さんには見えていないんだろうか?
< 20 / 289 >

この作品をシェア

pagetop