シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 優姫さんは少し胸元がはだけていたけれど、そこまで乱れている様子もないのですぐに助けてはもらえたのだと思う。

 でも何もされていないってわけではないだろう。


「優姫さん?」

 わたしも膝をついて彼女に目線合わせ、覗き込む。

 すると少し顔を上げた優姫さんは弱々しく口を開いた。


「……大丈夫。ちょっと太ももとかは触られたけれど、それ以上になる前に助けてもらえたから……」

 今にも泣きそうな顔をして続ける。

「……ごめんね? あたしがあなたを連れ出したせいでこんなことに……」

「いや、それは……」

 確かに、連れ出されなければこんなことにはならなかっただろう。

 でも。


「でも、巻き込んでしまったのはこっちだし……」

 中嶋たちが探していたのはわたしだ。

 優姫さんはたまたまこっちの事情に巻き込まれてしまっただけ。


「……」
「……」

 それ以上何を言って良いのかもわからず、お互いにそのまま沈黙してしまう。

 視線を下にして黙っていたら、床にポタリと雫が落ちてくる。

 ハッと顔を上げると優姫さんは静かに涙を流していた。


「優姫さん……」

 声を掛けると、タガが外れたようにボロボロと涙が零れ、嗚咽(おえつ)が漏れる。
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