シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「うっ、ふぅ……本当に、嫌だった……金多以外に触られるの……。ふっ……金多に、会いたいよぉ……」

「っ!」

 その言葉を聞いて、わたしは思わず彼女を抱きしめた。


 あんな風に別れ話を切り出されていたのに、あんな不誠実な様子の人なのに。

 それでも金多くんを想い求める優姫さんに心がギュッと締め付けられた。


 金多くん……あなたはこんなにも想われてるっていうのに……。

 怒りと悲しみと悔しさがいっぺんに湧き上がる。

 それでも、今はその思いをぶつける相手はいない。

 思いは苦しさとなって、耐えるしかなかった。


 わたしは優姫さんを慰めるように抱きしめ、歯を食いしばることしか出来なかった。

***

 杉浦たちが完全にのされると、ギンは後始末を他の人たちに頼みわたしたちの方へ来てくれる。

 彼はわたしの手を取り立たせてくれてから颯介さんに指示を出した。


「帰るぞ雪華。……ソウは優姫を頼む」

「へいへい。分かってるよ」

 いつもの軽い調子で返事をした颯介さんは、優姫さんを気遣いながら立たせてくれた。

 その様子を見れば、任せても大丈夫そうかと思える。


「ごめんね……ありがとう、雪華ちゃん」

 涙で赤くなった顔に少し笑顔を乗せてそう言った優姫さんは颯介さんに連れられて帰って行った。
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