シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「……見たところケガとかは無いな。嫌なことされてねぇか?」

 近づきながらそう言ってくる伊刈くんに「大丈夫」と笑顔で返すと、岸本くんがすぐ近くに来てわたしの両手を取った。

「本当か? 変なとこ触られてないか!?」

 手をギュッと握られてビックリしたけれど、それだけ心配されてるんだと分かって彼にも「大丈夫だよ」と返す。


 でも伊刈くんのゲンコツが彼の脳天に入り、すぐに手は離された。

「ってぇ! 何すんだよ!?」

「お前が気安く手ぇ握ってるからだろ。ギンさんに殺されるぞ?」

「え? あ、そっか。ごめんユキちゃん!」

「ううん、大丈夫だよ」

 いつもと変わらぬ様子の2人に苦笑する。


「ってかそのギンさんはどうしたんだ? ユキちゃん残して」

 痛そうに頭を両手で押さえながら、岸本くんは不思議そうに周囲を見回した。


「あ、ギンなら夕飯作ってくれるって言ってキッチンに――」

『え!?』

 言い終わらないうちに2人は声を揃えて驚きを示す。


「ギンさんが料理!?」

「してるとこ見た事ないぞ!?」

「そうなの?」

 聞き返しながら、だとしたら尚更どんな料理を作るんだろうと楽しみになった。


 意外と下手だったりして。

 それでも出来る限り食べるけど、なんて思っていたわたしはバカだった。


 そう、ギンは基本何でも出来る人だったんだ。
< 207 / 289 >

この作品をシェア

pagetop