シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 とにかくそういう状況だったから、三つ子からわたしが杉浦たちのところに連れ去られたっぽいという知らせを受けたとき、もう密告して捕まえてもらおう! となったらしい。


「少し急ぎだったからまだやらなきゃないことはあるけどな」

 伊刈くんがそう付け足す。


 そして颯介さんがやっと安心出来ると笑顔を浮かべて言った。

「あいつらは成人してるからな。あの証拠を見る限り確実に数年は刑務所行きだろ」

「……でも、数年で出てきちゃうんだ」

 ポツリと呟き、圧し掛かられたときの恐怖が蘇る。

 またあんなことになったらと思うと怖くてたまらない。


 そんなわたしの思いに気づいてか、ギンがそっと手を握ってくれた。

 真面目な顔で「大丈夫だ」と告げる。

「数年経てば一度しか見ていない雪華の顔なんてあいつらは忘れてるさ。……それに、その頃には《黒銀》はなくなってるだろうからな」

 仕返しする族そのものがないんだからどうしようもねぇだろ、と彼は言う。


「え? そうなの?」

「ああ、元々キョウを消すのに必要な人材を集めるための過程で仕方なく結成したチームだ。事が終わったら解散するってはじめから決めてたからな」

 ギンの説明にそういえばそうだった、と納得する。

 けれど《黒銀》の人たちはそれで本当に納得しているんだろうか?
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