シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「……ギン?」

「ん……上行くか」

 落ち着いた声音に聞こえるけれど、感情を抑えているようにも聞こえて……。

 もっとさらけ出してくれれば良いのにともどかしく思った。


「どっちの部屋がいい?」

 肩を抱かれたまま3階まで上ると、そう聞かれて不思議に思う。

 いつもみたいに彼の部屋に連れ込まれると思っていたのに。


「ギンの部屋が良い」

「……そうか」

 不思議に思いつつも答えると、変な間を開けて返事をされる。


 部屋に入っても何だかおかしい。

 優しいけど、変に気を遣ってるような……。


 そしてそれは気のせいじゃなかったらしい。


「じゃあ、ゆっくり休め」

 ギンはわたしをベッドに座らせると、そう言い残して部屋を出て行こうとした。

「え? 待って!」

 わたしは慌てて彼の袖を掴む。

「どうして行っちゃうの!?」

 やっと2人きりになれたのに。

 今のこのどうしようもない程の想いを伝えたいのに。


 引き留めるわたしの手をそっと取り、彼はまるで幼子(おさなご)をなだめるように告げる。

「疲れただろう? それに、今日は怖い思いだってしたはずだ。無理しなくていい」

「無理なんて……」

「いいから、今日は休め」

 そうしてまた離れようとする彼の手を掴み引き留める。
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