シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「やだ!」

「雪華……頼む。今の俺は気が立ってる。一緒にベッドに入ったりしたら、多分抑えが効かない」

「抑えなくていいよ」

「っ!」

 ギンは目をこれでもかというほど見開き、息を呑む。

 ここまで驚いた顔は初めて見たかもしれない。


 そのまま彼はたっぷり10秒ほど固まっていたけれど、「いや」と首を横に振った。

「ダメだ。お前自棄(やけ)になってねぇか? あいつに組み敷かれて、怖かったんだろう? その怖さを紛らわせようとしてるだけなんじゃないのか?」

 そんな状態で抱くわけにはいかないと拒否される。


 違う……違うのにっ。


「怖いなら眠るまで手ぇ握っててやるから、大人しく寝ろ」

 そう言って寝かせようとする彼に、わたしは泣きたくなりそうな気持ちでうったえる。


「違うよ。確かに怖かったけど、それを紛らわせようとしてるわけじゃないっ」

「雪華っ」

 聞き分けのないわたしに苛立っているみたいに声が少し荒れる。

 でも、荒れたいのはわたしも同じだ。

 どう言ったら伝えられるの?


「お願い……そばにいて。わたしのぜんぶ、貰って?」

「っ!」

 琥珀の瞳が揺れた。

 理性と欲がせめぎ合い、かろうじて理性が瞳に宿る。
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