シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 だいたい彼の家にあるものから提示したって、それは彼がすでに持っているものってことと同じようなものだっていうのに……。

 あのときのわたしはそれに気付かなかったんだ。


 念のためとついて来てくれた使用人っぽい人に聞きながら、見つけた宝石や高級菓子などを持って行ってすげなくいらないと言われて、段々わたしも意地になってきていた。

 もはやあのつまらなそうな顔を少しでも変えることが出来ればいいと思って探し続ける。


 そんなだったから、最後だと言われたときたまたま見つけた真っ赤なリンゴを持って行ったのかもしれない。

 まあ、純粋にわたしがおいしそうって思っただけというのもあるけれど。


「美味しそうでしょ?」

 と言いながら、意表を突かれた顔でも見られればもう満足だと思っていた。

 なのに……。


「ああ、美味しそうだな」

 そう言って彼がふわりと笑った瞬間、わたしは心を丸ごと奪われた。

 その笑顔に魅せられて、目が離せなくなって……。

 ただただ純粋に、ああ……好きだなって、思った。


 でも、その次の瞬間にはキスをされて、彼の名前も、あの瞬間芽生えた想いも、全て吹っ飛んでしまったんだ。


 本当に、全部あなたのせいだよ。

 苦笑し、シロガネを改めて見る。
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