シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
***

「じゃあ、ちゃんとゆっくり休んでおけよ?」

 いつもとは逆で、わたしが玄関でシロガネを見送ると念を押す様にそう言われてしまった。

 わたしが休むなら一緒にいられるのかなと思ったけれど、昨日の事でやり残した事があるからと彼は出掛けるのだそうだ。


「シロガネも気をつけてね」

 みんなの前ではまだギンと呼んだ方が良いだろうかと思ったけれど、杉浦たちが警察に捕まったし、そのうち《黒銀》も解散となる予定だから名前を呼ぶくらいは問題無いと言われた。

 フルネームで呼ぶのはダメだけど、だそうだ。


「……早く帰って来てね?」

 ほんのちょっとのわがままも口にする。

 せっかく一緒にいられると思ったのに、そうじゃないとなってちょっと寂しかったから。


「……」

 するとシロガネはわたしの顔をジッと見て黙ってしまう。

「シロガネ?」

 どうしたのかと小首を傾げると、手が伸びてきて後頭部を軽く掴む様に引き寄せられた。

 チュッと、軽く触れる唇。

 離れてから見えた彼の笑みに、トクンと優しく心臓が跳ねる。


「なんか、恋人って言うより新婚っぽいな」

「え?」

 その言葉に、今度はトクンどころかドキン! と跳ねる心臓。

「し、新婚って……」

 恥ずかしくて動揺する。

 でも、ちょっとだけ嬉しいとも思った。
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