シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
***

「雪華さん、ちょっと話せないかな?」

 その誘いに「いいよ」と返事をすると、わたしは眞白に『少し遅れるからちょっと待ってて』とメッセージを送って金多くんについて行く。

 連れて来られたのは、この間と同じ時計塔へと続く林の中だった。


「それで、話って?」

 立ち止まった金多くんに早速話をうながす。

「この間の話、考えてくれたかなと思ってね」

 そう言う彼はいつにもまして爽やかな王子様スマイルで、それが逆にわたしの(かん)に障った。


「金多くんの家に行かないかって話?」

 聞き返したわたしの態度は明らかに不機嫌なのに、金多くんは気にした風もなく話を続ける。


「時計塔には上ったんだろう? じゃあキョウを見たはずだ。兄さんは母さんのデジタルクローンであるキョウを消そうとしているんだよ? 酷いと思わないかい?」

「……思わないよ」

「どうして? 母さんを消そうとしてるとも言えるんだよ?」

「キョウは、桔梗さんじゃないでしょう?」

「君までそんな酷いことを言うのか?」

 悲しそうな表情に、話が通じないと思った。


 本気であれを母親だと思っているのか。

 それとも、思い込もうとしているだけなのか。

 金多くんのことをよく知らないわたしにはその判断は出来なかった。
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