シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「ばか、女扱いされるの嫌いなくせに……それに知らないの? 原作では王子の従者に棺ごと蹴られて起きるのよ?」

「ったく、夢のない王子様だな」

 なんて言いながらも、彼の目はわたしを愛し気に見つめてくれている。


「分かったよ。キスはあとだ」

 そう言ってシロガネは起き上がり、わたしの頭にポンと手を置く。

「来てくれて助かった。この部屋のドアを開けるのは骨が折れそうだったからな」

 笑みを浮かべてケースから出てきたシロガネ。

 殴られたという頭は大丈夫なんだろうか?

 そう心配するけれど、彼が痛がったのは頭ではなく腰の辺りだった。


「ってて……ったく、思い切りスタンガン押し付けやがって」

「……え? そっち? 頭金属バットで思い切り殴ったのに……」

 呆然としながらも驚きを口にした金多くんをシロガネは少し馬鹿にしたように笑う。


「殴られたフリに決まってんだろ。そのまま油断してもらうために気絶したフリしてただけだ」

 これ以上妙なことをされても面倒だからな、と言いながらチラリとキョウを見た。

「だいたいな」

 と視線を金多くんに戻す。

「目ぇつむったまま人を殴れるかよ。慣れねぇことしてんじゃねぇ」

「は……はは……」

 金多くんはどこかホッとした様子で笑い声を漏らすと、そのまま力が抜けたように床にへたり込んだ。

 そこに優姫さんが寄り添う。


「それに」

 と、シロガネは眼差しを優しいものに変えて口にする。

「弟を犯罪者にするわけにはいかねぇだろ?」

「兄さん……」
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