シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「これって……」

「母さんが亡くなる前に残した手紙だ。全く、キョウを消してこれをみんなに渡してくれって遺言がこんな大掛かりなものになるとは思わなかったぜ」

「え? 母さんの、遺言? 何だよそれ、兄さんそんなこと一言も――」

「言おうとしたさ。でもお前、キョウを消すって言った時点で取り乱して聞く耳持たなかったじゃないか」

「うっ……」

 押し黙る金多くんに、「いいから読め」と言い残して今度は眞白の方へ向かう。


「ほら眞白、お前宛ての手紙だ。……ん? なんだ、父さん宛てもあるのか。これも後で渡しといてくれ」

「……」

 複雑そうな表情で黙って2通の手紙を受け取る眞白。

 そんな眞白にもシロガネは「読んでみろ」と告げてわたしの所へ戻ってきた。


「全く……最新技術を駆使してデジタルクローンなんか作ろうとしてたくせに、最後には手紙が一番気持ちが伝わるなんて言うんだぞ? ふざけてるよな?」

 なんて言いながらも、表情は仕方ないなとでも言うような苦笑いだ。


 そうして最後に残った1通を見て、顔をしかめる。

 どうしたんだろう?


 不思議に思っていると、その1通をわたしに差し出した。

「え?」

「これは雪華宛てだ。……なんだよ、一番頑張った俺には無しかよ」

 不満げなシロガネから手紙を受け取りつつ、戸惑う。
< 275 / 289 >

この作品をシェア

pagetop