シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「……おい」

 不満げな声が聞こえる。

「えっと、だって。また苦しくて意識失ったら困るから!」

 やっと起きたのに、彼の毒のようなキスでまた眠らされてしまったら困る。


「……」

 わたしの訴えに、彼は押し黙ってしまった。

 怒ってはいないと思うけど……。


 沈黙に不安感が増す。

 でも、目の覆いが外されて見えた彼の表情は何とも言えない複雑そうなもの。

 困ったような、嫌そうな、自嘲するような。

 その表情のまま「はぁ……」と軽くため息をついた。


「悪かったよ。昨日も、時計塔でも。……お前が欲しくて抑えが効かなかったんだ」

「え……えっと……」

 なんて返せばいいのか。

 とりあえず、抑えが効かないほど求められていると分かってとにかく恥ずかしい。


 言葉を返せず照れていると、何を思ったのか彼は口角を上げて妖しく笑った。


 え? 何?


 まるで良いことを思いついたとでもいうようなその顔に警戒心が募る。


「……このままじゃあ困るからな。練習させてくれよ」

「は? 練習って……」

「そりゃあ、キスの練習。流石に何度もしてれば抑えも効くようになるだろ」

「え、ええ!?」
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