シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「お、来た来た。ユキちゃんに紹介しないとな」

「へ?」

 話を遮られたせいもあってどういうことなのか一瞬分からなかった。

 ただ、紹介という言葉ですぐにこのシェアハウスの住人のことかと思い至る。


 確か、本の字の岸本さんと怒りマークの伊刈さん。


 先にマグカップで説明されたせいかそっちから連想した方が覚えやすそうだった。


「みんなおっはよー」

 そう言って朝から元気に挨拶をして現れたのは、てっぺんが茶色で毛先に行くと徐々に金色になるような髪色の男。

「てめぇは朝からうるせぇんだよ」

 そしてこげ茶の髪を短く切っている目つきの悪い男だった。


「……」

 何となく、茶金の人が岸本さんで、目つき悪い方が伊刈さんな気がする。

 イメージ的にそう思っていたら、その通りだった。


「あ! 君がユキちゃん? 聞いてるよー。俺は岸本瑛斗(えいと)。タメだし、きっしーでもえいくんでも好きに呼んでー」

 真っ先にわたしに気づいた岸本さんが陽気に自己紹介してくる。


「え? えっと……じゃあ岸本くんで」

 戸惑いつつも無難な呼び方にする。

 いくら同じ年でも、初対面の人を愛称呼びするのもどうかと思うし……何よりマグカップの説明のせいか苗字の方が覚えやすそうだったから。
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