シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
「えー? ひねりのない呼び方だなぁ?」

 岸本くんは不満そうに眉を寄せたけれど、そんな彼に伊刈さんが拳骨を落とす。

「てめぇは初対面のやつ相手に馴れ馴れしすぎるんだよ」

「ってー……」

 痛がっている岸本くんをそのまま放って、伊刈さんはわたしに向き直った。


「俺は伊刈央汰(おうた)。俺もタメだし、敬語とかいらねぇから」

「あ、うん。じゃあ伊刈くんって呼ぶね」

 簡単な自己紹介に頷いて返す。


 これで一応ここの住人皆に自己紹介してもらったし、わたしもした方がいいかな? と思っていると颯介さんが割って入ってくる。

「自己紹介終わった? じゃあ朝飯にしようぜ。腹減ったし」

 そう言って岸本くんに催促する。

「ハイハイッと。ちゃーんと買ってきましたよ、颯介さんいつものでいいんですよね?」

 そう言いながら持っていたビニール袋に手を突っ込む岸本くんを見て、買ってきてもらってたんだと知った。


 じゃあサンドイッチ余っちゃうかな?

 どうしよう、お弁当代わりに持っていこうかな?


 なんて考えていたけれど、袋から出てきた品物にピタリと思考を止める。

「そうそう、なんだかんだ言ってもチーズ味が一番なんだよなー」

 と、颯介さんは岸本くんからそれを受け取った。
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