シュヴァルツ・アプフェル~黒果~魔女と呼ばれた総長はただ1人を所望する
 優姫さんの言葉は、わたしがギンのものになる気になったら彼のもとへ行くという話を知っているかのようだった。


 眞白を睨んだのは、多分連れて行くのが眞白だと知っていたから。

 抱かれたの? なんて聞いたのは、わたしがその気になったと思ったからなのか。


 どうしてわたしも知らなかったことを知っているの?

 どうしてそんな険しい表情で抱かれたかなんて確認するの?


 いくつもの疑問や戸惑いはあったけれど、とりあえず彼女の様子が少し怖かったので首を横に振ることで答える。


「本当に?」

 確認の言葉には首を縦に振って答えた。

 するとやっと彼女は安心したように肩の力を抜き表情を元に戻す。

 でも、真剣な目で忠告された。


「お願いだから、彼のものにならないで」

「え……?」

 どうして優姫さんにそんなことを言われなければならないのか。

 それに、ギンのことをよく知っているような様子にも疑問が浮かぶ。


 どの疑問から聞けばいいのかと少し迷っていたら、眞白が口を挟んできた。

「ちょっと、優姫さん落ち着いて」

 でも……。

「おい眞白、お前日直だろ? こんなギリギリで大丈夫なのか?」

 通りがかったクラスメイトらしき男子生徒に声をかけられ、「やば、忘れてた」と渋面をつくる。


「とにかく、優姫さんの心配するような事にはならないから落ち着いて下さいね!」

 そう言い残して「じゃあ」と先に校舎へと行ってしまった。
< 86 / 289 >

この作品をシェア

pagetop