ホテル王に狙われてます!ハニートラップから守るはずが、罠にかかったのは私でした?!
第1波のチェックインのピークが過ぎ去った。客足が落ち着いたので、カウンターから、エントランスのガラス越しに見える人通りを眺めていた。パラパラと雨が降り出したようで、傘をさす人が増え始めた。

すると、営業の橘さんがフロントカウンターに入ってきた。

「お疲れ様です。」

と、挨拶をすると、

「お疲れ様。今日は何時上がり?」

と聞いてきた。

「えっと、19時ですが…。」

と、答えると、

「じゃあこの後、飯行かない?」

と言ってきた。

私は馴れ馴れしいのは好きではない。

「今日は清水さんにフォローを入れてくださったようで、ありがとうございました。」

と、私なりの距離感を保つ為と、話を逸らす為に、あえて堅苦しくお礼を言った。

「いいよいいよ。大したこと言ってないから。それより、今晩空いてる?」

と、再び聞いてきた。話を逸らすことが出来なかった。

そこへ、ロビーに、ふらっと森本様が現れた。

私は橘さんに、

「失礼します。」

と言ってから、貸し出し用の傘を持ち、森本様に駆け寄った。

「森本様!」

と、声をかけた。森本様は少しびっくりしたようで、

「あっ、どうも。」

と、言った。私は続けて、

「お出かけですか?」

「ええ。ちょっとそこの本屋まで。」

「雨が降っておりますので、こちらをお使いください。」

と、傘を差し出した。

「ありがとう。助かります。」

と、森本様はぺこりとお辞儀をしてくれた。そして、エントランスから出て行った。私は森本様の後ろ姿を見送りながら、

本当は違うんです。私は橘さんから逃げる為に、あなたを利用したんです。

と、少し後ろめたさを感じていた。


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