むり、とまんない。


あの日、胡桃が心の声がきこえるようになって、俺が胡桃を嫌いだと勘違いしたあの夏の日。


『前から思ってたけど、胡桃と部屋でふたりとかほんとむり』


『つか、ベッド乗んなよ』


『頭おかしくなる』


あれはぜんぶ、たしかに俺の本音。

だけど。


部屋でふたりが無理なのは、理性を保つのに必死だったから。


中学なんて思春期真っ盛り。

好きな子とふたりきりで、しかもその子はベッドでくつろいでる。


押し倒してめちゃくちゃにしたいって、内心理性がぶっ飛びそうだったんだよ。


「り、理性……」


そう、理性。

好きな子が自分のベッドにいる状況に、普通でいられる男のほうがどうかしてる。


「じゃ、じゃあ、あの時コンビニに行くって言ったのは……」


そうだよ。


「これ以上ふたりでいたら、ぜったい襲うって確信してたから」

「………」


確信。

そう、耳に唇を寄せてわざと低く囁けば、ビクリと肩が跳ねて、俺のシャツを掴む手に力が入る。


「シャツじゃなくて、俺の手、握っててよ」


そう言えば、はずかしそうに、目を逸らしたままなにも言わないから。


「俺のほう見てくれないんだったら、このまま話続ける」


「っ、や……っ」
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