むり、とまんない。
芸能科にいた頃のことや、芸能界に友達がいるって話は、遥から聞いたことない。
私が知らないだけで、遥とはけっこう仲がいいのかも。
八朔くんのことも、知ってたし。
同じアーティストとして、いろいろ話が合うのかな。
「まあ、そういうことにしとくよ。
今は」
「今?」
「うん」
なにがなんだかわからないけど、どうやら遥と甘利くんは知り合いらしいってことがわかった。
「じゃあ、今日はありがとうな」
「あっ、うん、こちらこそ……?」
「なんで疑問形?」
「な、なんとなく……?」
「っ、はは、やっぱおもしろいわ、橘」
それに、こんなふつうに笑う人って知らなかった。
とりあえず家に帰ったら、甘利くんがよろしく言ってたって伝えよう。
「じゃあ、」
「あっ、甘利くん!」
「なに?」
去っていく後ろ姿に、あわてて声をかけた。
「心の声のこと、メンバーのみんなは知ってるの?」
「知ってる。
このこと知ってるのは、メンバーと、親と」
橘だけ。
「じゃ、また学校で」
「う、うん、また……」
そう言ってふっと笑った甘利くんの後ろ姿を見つめる。
まさか、他に心の声が聞こえる人が身近にいたなんて。
知らなかった。