むり、とまんない。
朝のことを思い出していたら、たまたま甘利くんも自販機にやってきたみたいで。
「今日、遥は?」
「あ……なんか新曲の準備で忙しくて、これからあまり学校に来れないかもって」
「そうなんだ」
ふたりで少し話をすることにした。
新曲の準備って、本当?
私と顔を合わせづらいから、そう言ってるだけなんじゃないの?
考え出したらとまらなくて、醜い黒くて汚い考えだけが心の中にたまっていく。
「昨日は、急にごめん」
「え……」
「遥の前で、手握ったこと」
コーヒーを飲んでいた甘利くんだったけど、ふうっと息をはくと、どこか緊張したような面持ちで、私を見た。
「甘利、くん……?」
「橘」
「っ……」
この瞳を、私は知ってる。
私だけしか見ていない。
じっと見つめてくるその瞳が、甘く、どこか燃えそうなほど熱くて。
これから甘利くんが言おうとしていることに、察しがついた。
私、バカだ。
本当にバカだ。
ほんと、鈍感すぎる自分がいやになる。
情けなくなる。
「バカじゃないよ、橘は」
「え……」
「バカなのは俺だ」
私の心の声が聞こえたんだろう。
自分をひたすら罵っていたら、甘利くんは私のほうへ一歩近づいた。
「もう叶わないって思ってた。
保育園の頃から橘の隣には遥がいて、俺が橘に話しかけようもんなら、めちゃくちゃ怖い顔してて」
まだ保育園だって言うのに、どんな独占欲だよ、あいつ。
なんて甘利くんは笑う。