むり、とまんない。


ふわふわ髪をなでる大きな手に、ゆっくり目が覚めていく。


あ、この手……。


この手を私は知ってる。

だいすきな手だ。


熱を出したときからずっと、私にふれてくれてた少し低い体温。

でもそれでも心地いいのは、遥をすきだから。


「はる、か……?」


「ごめん、起こした?」


「ううん、平気……」


まだ意識がちゃんとしてないせいか、視界がぐらぐらする。


「それ、王子様の……」


「うん。
衣装合わせ終わって、胡桃探してた」


ぎゅっと肩を抱き寄せられて、遥の肩に頭を預ける。


「ふふふ、やっぱり思った通り」


「ん?」


黒のタキシードだった。

クールな遥に似合ってて、かっこいい。

そう、思うのに。


「だれにも、見せたく、ない……っ」


久しぶりに会えて、久しぶりにふれてもらえた。


甘利くんのこと、ここ最近のこと。

あの勝負のこと。


忙しい遥の体調。


聞きたいこと、話したいことは山ほどあるのに。



「私、の……」


「っ……」


「遥は、私、の……っ」
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