むり、とまんない。


「行ってきまーす!」


早く早く。

急いでるときに限って、ちゃんとローファーが履けなかったり、鍵がうまく閉まらなかったり。


よし!鍵もOK!

とにかく早く!


肩にかけたカバンをぎゅっと握って、走ってそのドアの前を通り過ぎようとしたら。


「いってきまー……あっ、おはよう胡桃」


げっ、最悪……。


隣の部屋のドアから出てきた1人のイケメンに顔をしかめる。


ワックスで整えられたキャラメルブラウンの髪。


白い肌に、スっと通った鼻筋。

女の子みたいに長いまつげ。

少しタレ目な優しい目元。


なのに身長は180もあって小顔で。


「……今日もきまってるね、杏(きょう)」


「え、シャレ?」


「ちがうよ!」


クスッと笑ったその瞳はとびきり優しい色をしているから、

王子様ってこんな感じなんだろうなぁっていっつも思う。

若干、子犬っぽいけど。


「珍しいね、胡桃がこんな時間に家出るなんて。
あ、また桃華?」


「うん。ごめん、起こすのお願いしてもいい?」


「了解。
中、勝手に入るね」
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