むり、とまんない。
私も遥もじっと甘利くんを見つめれば、一瞬目を閉じた甘利くんはそのまま空を見上げたけれど。
すぐにまっすぐ遥を見た。
「聞いたんだよ。クラスの女が話してるの」
「なにをだよ」
「おまえが昨日リハ中に高熱で倒れて、病み上がりだって」
「最悪」
「元々ダンスメインじゃねーのに、病み上がりであのダンスと歌はぜったいにきついはず。けど最後までやりきった。その瞬間思ったんだよ。
おまえにはもう最初から、闘う前から負けてたんだって」
「甘利くん……」
「しっかもさぁ、なに?あのダンス。
色気増し増しだし、あそこにいた女、みんなbondの虜にしちゃって」
「言い方」
どこかやけくそに言った甘利くんだけど、ふっと笑って屋上の出入口に向かう。
「安心してよ。
もう橘には一切近づかないし、あきらめるから」
「甘利く……」
「甘利」
「なに」
「勝負できて楽しかったよ。
ありがとう」
「っ、こちらこそだよ、ばーか」
そう言って最後に私を見つめた甘利くんは。
「大好きだったよ、橘」
最後にそれだけを言って、どこか吹っ切れたようにまぶしい笑顔で笑った。