むり、とまんない。
穏やかな杏と反対に、いつもクールな遥(はるか)。
今も無表情で、冷え冷えとした眼差しで見下ろしてくる。
口元は片手で覆われて、
交わったのは、ほんの一瞬。
『……ほんと、むり』
そして視線をすぐに逸らされた、その瞬間。
「胡桃、桃華起こし……」
後ろで杏がなにか言っていたけれど、
「あっ、胡桃!?」
胸がぎゅっと締めつけられて、私はすぐに走り出した。
痛い、苦しい……っ。
どうして。なんで。
私が何したっていうの。
「はぁ、はぁっ……」
学校のすぐそばまで来たところで、膝に手を当てて乱れる息を整える。
胸が切り裂かれみたいに痛い。
心臓がドクドク言ってる。
いつからだろう。
いつから遥とはあんな風になっちゃったんだろう。
まだ小さいころ。
お互いの家を行き来していたときのことを思い出して。
喉の奥から熱いなにかが込み上げてきそうになって。
ぎゅっと唇を噛みしめた。
こんなつらい思いをするくらいなら、いらなかった。
……遥の心の声だけが聞こえる力、なんて。