むり、とまんない。
なんて思っていたのも束の間に。
「きゃあああ!!」
「やばいって!
かっこよすぎ!!」
「橘さん、羨ましすぎる〜!!」
より一層教室が騒がしくなって。
みんなの……特に女の子がみんな目をハートにさせて私を見ている気がする。
えっ、今、名前呼ばれた?
「ここ。
隣空いてる?」
「あっ、はい。
空いてます……」
って……。
この声!?
うしろから聞こえた声にバッと振り返ると。
窓から入ってくる風に、艶のある黒髪がさらさらと揺れて。
涼しげな夜を思わせる藍色のピアスがきらりと光った。
「な……なな、なななんで、ここに……」
「なんでって、今日から同じクラスメイトだから」
ふっと口角を上げてほほ笑むその顔は、紛れもなくつい先日から私の心を動揺させてばかりの。
「今日からよろしくな、胡桃」
「きゃあああああ!!」
「遥くんんんんん!!」
「名前っ!?名前で呼んだ!?」
「頭ポンはやばいってえぇぇぇーーー!!」
一昨日のことを、夢じゃなかったと喜んだ自分を罵りたい。
ポンっと頭に手がのったのと同時に。
『隣の席とかまじ最高。
ずっと胡桃のこと見てられるし、横顔独り占めできる』
聞こえた心の声とまなざしは、とろけるほど甘ったるくて。
「だれか、夢だと言って……」
教室中に響き渡る悲鳴も声も、ぜんぶが遠く聞こえるくらい。
私の頭の中は遥の言葉が埋めつくしていた。