孤独な主人と娘
貴族の男がおりました。
年はまだ若く、お金はあるけれど孤独で、町の外れにある、小さいけれど立派な屋敷にたった一人で住んでいました。人を心から愛したことが無い男でした。

ある日、屋敷の庭に少女が迷い込みました。
天涯孤独の身の上で、屋敷から出てきた男に言いました。

「お許しください貴族様…。誰の役にも立たないこの身が悲しくなり、さ迷っていたのです。もうどこにも、行くところがないのです。貴族様、私に仕事を与えてくださいませんか?懸命に働きます!」

しかし、男は言いました。

「私は人間が嫌いだ。今すぐ出ていけ、用はない。」

娘は懸命にまた言いました。

「一生懸命働きます!あなた様が身体を差し出せというのなら差し出します!少ししても役に立たないと言うのなら殺してもかまいません!お願いです!少しの間だけでも…!!」

男は追い返すのを諦め、そばにおいてやりました。


娘は毎日与えられた仕事を懸命にやりました。

食事をする間も休む間も惜しみ、夜には、無垢だった身体を差し出し、主人のため、眠る間も惜しみました。
主人のために働き続ける毎日に、娘は誰かの役に立てるのが嬉しく、とても幸せに思っていました。

そのうち娘は、自分を求めてくれる主人を好きになりました。そしてさらに主人のために懸命に働きました。


しかし、娘は無理がたたり、だんだん弱っていきました。

それでも主人のためにと仕事をし、無理やり身体を差し出し、とうとうある夜、娘は主人の腕の中で、主人に別れを告げました。娘は自分がもう長くないことを悟っていたのでした。

「さようなら旦那様…私はもう、長くありません…。私はあなた様をお慕いしていました。あなた様のそばにいられて、私はとても幸せでした…」

男は娘を抱き締めながら言いました。

「早く医師を呼ばなければ!!娘…私はなんて愚かだったのだろう…!お前を大切に思っていたのに気づいてやれず、気遣ってやらなかった…!」

「いいえ旦那様…あなた様の腕の中で死んでいけるなんて…なんて私は幸せでしょう…!抱いていてください…ずっと…」

「しっかりしておくれ…!」

「さようなら…私…幸せ…」

「お前が好きだったのに…!それなのに冷たく突き放し、仕事ばかりさせて、優しくしてやらなかった…!!お願いだ、目を開けてくれ…!!」

目を閉じた娘は主人に抱かれたまま命尽きました。

「愛していたのに…!!初めて私は人を愛した、お前を!!死なないでおくれ!!」

男は生まれて初めて、人を愛し、娘を想い泣きました。
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