その星、輝きません!
財布の拾い主
「あーどうしようか?」
星那は拾った財布を持ち上げた。
「多分、この店のお客さんの落とし物じゃないの?」
明子は、今ランチをして出て来た店の入り口を指さした。店の入り口からは、二メートルほどしか離れていない。この店から出来てきた人以外には考えにくい。
「そうね、お店に届けてから帰るわ。また、ランチしよう」
「うん。じゃあね。気を付けて」
明子に軽く手を振った。
一目でわかる高いブランド物の長財布。男物の黒い財布に、指先から大金の重みが伝わってきそうだ。
手にした財布から目を離し、駐車場を見渡す。黒色の高級車に向かう、スーツ姿の男性の後ろ姿が目に入った。あの男の人の物かもしれないが、走っても追いつかないだろう。
夏の終わりの緑と共に、川から吹く風が気持ちよく頬を撫でていく。
くるりと向きを変え、今、出て来たばかりの店のドアを開けた。
< 1 / 96 >