その星、輝きません!
何故
何故なんだ!
このセリフを今日何度吐いただろうか……
昨日、確かに約束したのに、彼女はクリニックに居なかった。カウンセリングルームで待っていたのは、別のカウンセラーだった。
「申し訳ありません。鈴橋が急用で本日休みを頂いております。私が変わりにお話を伺います」
「えっ?」
その瞬間、石で殴られたのかと思うほど体中が脱落した。
「どうぞ、お座り下さい」
・ソーシャルワーカー ・カウンセラー 吉川薫という名刺をいつ手にしたのか、さだかではない。
「あっ…… それなら、別の日に伺います」
なんとか気を取り直して、口を開いた。彼女でなければ意味がないと、俺の胸が言っていた。
「まあまあ、そう言わずに……」
吉川と言うソーシャルワーカーが、小さく手招きした。意味ありげにほほ笑まれ、仕方無く椅子に座った。
「単刀直入にお聞きします。一条さん、今凄くショックを受けていらっしゃいますよね。鈴橋でなくて、申し訳ありません」
「はっ? そんな事は…… 突然予定が変われば、誰もが戸惑うものではないですか?」
なんとか、平常心を取り戻しはじめる。
「確かに…… でも、先ほどこの部屋のドアを開けた時の愕然とした表情は、普通では無かったです」
「何を言いたいんです?」
「まあまあ、私はあなたの敵ではありません。確認したいだけです。鈴橋の事が気になりますよね?」
「ですから」
少々イラっとして、帰ろうと椅子から立ち上がった。
「鈴橋は美人だし、とても面白い子です。一条さんは、どこで彼女に会ったんですか?」
「財布を拾って頂いただけですから……」
カフェのテラスで表情をコロコロ変えながら笑っていた彼女を思い出す。
「きっとどこかで、バカみたいに笑っていたんでしょうね……」
「えっ?」
なぜ、分かったんだ……
ソーシャルワーカーが、俺の方へ真っすぐな視線を向けた。
「鈴橋の笑顔は人を救いますから…… 笑顔が綺麗とかそういう事ではないです。ただ、一緒に笑ってしまうんです。ここに来る患者さんの多くが、一緒に笑いたくて来ているのかもしれません……」
先日、談話室を窓から覗くと、彼女を囲んで数人の人が笑って話をしていた。皆の輪から少し離れた場所で下を向いて座っている女性がいた事を思い出した。彼女が何やら声をかけると、その女性がほんのわずかだが目尻を下げた。
「なんとなく、分かる気がします……」
もしかして、俺も、また笑いたくてここに来たのだろうか?
「私には、一条さんが、今日彼女に何を話すつもりでお見えになったのかは分かりません。もういい大人ですから、多少の遊びに口出すつもりもありません」
「はあ? 別に僕は……」
ただ、俺は、東京に戻る前に、もう一度彼女に会っておきたいと思っただけだ。彼女に遊びで声をかけるなど、考えもしなかった。
「でも、もしあなたが、鈴橋の事を本気で気になるのでしたら、笑顔だけを求めないで欲しい。それだけです……」
ソーシャルワーカーの言っている意味が、この時の俺には全く分からなかった。
このセリフを今日何度吐いただろうか……
昨日、確かに約束したのに、彼女はクリニックに居なかった。カウンセリングルームで待っていたのは、別のカウンセラーだった。
「申し訳ありません。鈴橋が急用で本日休みを頂いております。私が変わりにお話を伺います」
「えっ?」
その瞬間、石で殴られたのかと思うほど体中が脱落した。
「どうぞ、お座り下さい」
・ソーシャルワーカー ・カウンセラー 吉川薫という名刺をいつ手にしたのか、さだかではない。
「あっ…… それなら、別の日に伺います」
なんとか気を取り直して、口を開いた。彼女でなければ意味がないと、俺の胸が言っていた。
「まあまあ、そう言わずに……」
吉川と言うソーシャルワーカーが、小さく手招きした。意味ありげにほほ笑まれ、仕方無く椅子に座った。
「単刀直入にお聞きします。一条さん、今凄くショックを受けていらっしゃいますよね。鈴橋でなくて、申し訳ありません」
「はっ? そんな事は…… 突然予定が変われば、誰もが戸惑うものではないですか?」
なんとか、平常心を取り戻しはじめる。
「確かに…… でも、先ほどこの部屋のドアを開けた時の愕然とした表情は、普通では無かったです」
「何を言いたいんです?」
「まあまあ、私はあなたの敵ではありません。確認したいだけです。鈴橋の事が気になりますよね?」
「ですから」
少々イラっとして、帰ろうと椅子から立ち上がった。
「鈴橋は美人だし、とても面白い子です。一条さんは、どこで彼女に会ったんですか?」
「財布を拾って頂いただけですから……」
カフェのテラスで表情をコロコロ変えながら笑っていた彼女を思い出す。
「きっとどこかで、バカみたいに笑っていたんでしょうね……」
「えっ?」
なぜ、分かったんだ……
ソーシャルワーカーが、俺の方へ真っすぐな視線を向けた。
「鈴橋の笑顔は人を救いますから…… 笑顔が綺麗とかそういう事ではないです。ただ、一緒に笑ってしまうんです。ここに来る患者さんの多くが、一緒に笑いたくて来ているのかもしれません……」
先日、談話室を窓から覗くと、彼女を囲んで数人の人が笑って話をしていた。皆の輪から少し離れた場所で下を向いて座っている女性がいた事を思い出した。彼女が何やら声をかけると、その女性がほんのわずかだが目尻を下げた。
「なんとなく、分かる気がします……」
もしかして、俺も、また笑いたくてここに来たのだろうか?
「私には、一条さんが、今日彼女に何を話すつもりでお見えになったのかは分かりません。もういい大人ですから、多少の遊びに口出すつもりもありません」
「はあ? 別に僕は……」
ただ、俺は、東京に戻る前に、もう一度彼女に会っておきたいと思っただけだ。彼女に遊びで声をかけるなど、考えもしなかった。
「でも、もしあなたが、鈴橋の事を本気で気になるのでしたら、笑顔だけを求めないで欲しい。それだけです……」
ソーシャルワーカーの言っている意味が、この時の俺には全く分からなかった。