その星、輝きません!
偶然
*****

 何だったのよ、いったい!
 良太のアパートに合鍵で入り、バタンとドアを閉めた。

 いきなり腕を掴んで「車に乗れ」だなんて、強引にもほどがある。だいたい、どうしてこんな大都会で、あの男と遭遇するのよ。

 決して広いとは言えないアパートの部屋の中を見回す。相変わらず、男の一人暮らしにしては片付いてる。

 気持ちを切り替えて掃除をしよう。窓を開けて大きく息を吸い込んだ。良太の好きな物でも作るか。



 炊き込みご飯に、から揚げ。サーモンのマリネとポテトサラダ。そろそろ帰ってくる頃だと思い、揚げ物の準備に入る。

 ガタガタと鍵を回す音がして、ドアが開いた。


「ただいま……」

「いま、から揚げが出来るから待ってて……」

 返事がない。

 ドアの方を見ると良太が立っていた。だが、その後ろにもう一つ影がある。


「誰か一緒なの?」


 鶏肉に粉をまぶしながら言った。せっかく話をしようと思ったのに、友達連れてくるなんて、ずるいんだから……


「おじゃまします」

 声のする方へ目を向けた。

 げっ!!
 粉の着いた鶏肉を持った手が、動きを止めた。


「何で、あなたが一緒なの?」


 そこには、さっき腕を掴んだ財布の男が立っていた。目を見開いて、三回確認したが見間違いじゃなさそうだ。


「バイト先で、待ってたんだよ。ずっと俺の跡を付いて来た」

 子犬でも付いてきたぐらいの言い分だ。


「どうして、連れてくるのよ? 普通、断るでしょ?」


「知らねぇよ。着いて来ちまったんだからしょうがないだろ。とにかく腹減った」


 もう、後を付ける方もどうかと思うが、そのまま連れてくるほうもどうかと思う。

 かける言葉も見つからず、鶏肉を油の中に入れた。



「さっきは、強引に悪かった……」

 彼が、小さく頭を下げた。
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