その星、輝きません!
「なんで、ここに居るんだよ……」
ランニングマシーン淡々と走る俺の横で、良太がぼやいた。
良太がバイトだと言うので、俺もせっかく会員になったスポーツジムに来ただけだ。
「会員になったんだ。客に向かって、その態度はないだろ?」
「どうしてだよ? なんか面倒臭い事になっている気がするんだけど……」
良太がブツブツ言っているが俺には関係ない。
「なあ、お姉さんは、次は何時こっちに来るんだ?」
「わかんないけど、あの調子じゃ、また近いうちに来るんじゃないか?」
良太は、運動器具のメンテナンスをしながら答える。
「来る時は、俺に教えてくれ」
「ええー。何で俺が? 姉ちゃんに怒られる……」
「今度、飯奢る」
「マジか! 肉でもいいのか?」
良太声が明らかにワントーン上がった。これでなんとかなると確信した。
「構わん。そういや、姉さん何歳だ? お前とえらく歳離れてないか?」
昨日から気にはなっていたが、つい聞きそびれてしまった。
「ああ…… 父親が違うからな。十三歳違いだ。いわゆる異父兄弟ってやつだな」
「そうなのか…… なんだか複雑だな。それにしても、姉さんお前の事に、干渉しすぎじゃないか? まるで母親だな?」
「まあな…… 両親が交通事故で死んじまったんだ。俺が十歳の時だ。それからは、姉ちゃんと二人だったからな……」
「すまん…… それは辛かったな。姉さんも苦労したんだ……」
そんな事情があるとは知らなかった。幼い弟を抱えて、彼女も苦労したのだろう…… 精神的にだって経済的にだって。なんだか、良太に悪い事を聞いてしまった気がした。
「いや。そもそも自由な両親だったから、生まれた時から姉ちゃんが母親みたいなものだったし。そりゃ、経済的にもそれほど余裕があったわけじゃないけど、旅行好きな姉ちゃんのおかがで、あっちこっち海外に連れまわされて友達は羨ましがってたけどな。けっこう楽しくやってきたぜ」
「あ、そうなのか……」
複雑な家庭環境のような気がするが、世間が思うよりは楽しくやっていたのだろう……
「それで、お姉さん今まで独身だったのか? お前の事が心配だったんだろうな?」
「いや、姉ちゃん結婚してるぜ」
良太は、当然の事のようにさらっと言ったのだ。