その星、輝きません!
 「良太コーチ、ちょっと見てもらえるかね?」

 多分、シニアクラスであろう女性が、しわくちゃな顔で手を振っている。

「はい、はい」

 良太は、返事をしながら身軽に駆け寄って行った。

「この、新しい測定機の使いかたがわからなくて」

「そうですよね。前と大分違うから。でも、こっちの方が簡単なんですよ」
 
 良太が説明を始めると、別の年配の女性が近づいてきた。

「私も知りたかったのよ」

 あっと言う間に、良太はシルバークラスの団体に囲まれていた。何を話しているのかよく聞こえないが、時々、大きな笑い声に変わる。みんな楽しそうだ。


「良太コーチ、まだ?」

 今度は、ジムの入り口から、水着姿の子供達が手招きしている。多分、これからはじまる、キッズスイミングクラスの子供達だろう。

「はいよ。ちょっと待っていて」

 良太はシニアチームに何やら告げて、子供達の元へ向かって行った。

「あーあ、行っちゃった……」

 一人のばあさんが、寂しそうに良太の後ろ姿を見て言った。

「本当にねえ。今日も、元気をもらったね」

「あー。もう六十年遅く生まれて来たかった。良太コーチと恋に落ちたかもしれないわ」

 婆さん達は、楽しそうに笑い合った。
 

「ねえ、良太コーチ聞いて。今日、給食でね……」

 低学年くらいの女の子が話はじめると、もっと小さな子が、良太の腕にからみついた。
 数人の子供達が良太を囲んで大騒ぎだ。良太が笑うと、子供達の笑い声が響きわたった。


「もう、はじまる時間だからいくぞ」

 良太は、子供達を連れ立ってプールへと向かって行った。


 なんなんだ、この兄弟は……
 兄弟そろって、笑ってばかりだな……
 嫌、兄弟そろって周りの人たちを笑顔にさせているのだ。

 でも、不思議と嫌な気はしない。
 もっと、もっと、彼女の事を知りたいと思った。
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