その星、輝きません!
「お腹が空いたんです。夕飯、食べてないので!」

 正面を向いて、ハンドルを握るとエンジンをかけた。

「ああ。じゃあ、何か食べに行こう。フレンチの店、予約するぞ?」

「結構です。こんな時間から、そのような物は食べません。いいですから、ご自宅を教えて下さい」

「じゃあ、何が食べたいんだ?」

 ぐるりと辺りを見回すと、豚骨ラーメンと書いてある看板が目に入った。

「ラーメンでいいのか? じゃあ行こう!」


 彼は、私の前にぐっと手を伸ばすと、エンジンを切って鍵を抜いた。彼の髪が、顔の前で揺れた。この体制はちょっと……

 まごまごしている間に、彼は車から降りて、今度は運転席のドアを開けた。私を車から下ろすと、腕をつかんで、ラーメンの看板の方へと向かって歩き出した。

「ちょっとー。私、秘書なんですけど!」

「秘書は、社長の言葉が絶対だ」

 そういう事じゃなくて……

「ええーー」

 悲鳴を上げてはみたものの、店の前まで行くと、豚骨の匂いに負けた。引きずられる振りをしながら、目線は張り出されたメニューにある。

 素直にテーブルに座り、餃子を頼もうか考える。このまま、彼を家まで送るとなれば、車の中でニンニクの匂いをさせるのはいかがなものか?

「俺は、豚骨チャーシューと餃子」

 彼が、メニューを見ながら言った。

「私は、キャベツ豚骨と餃子」

 やった~ 彼が餃子を頼んでくれたおかげで、気にせず餃子を頼めた。思わず、顔が緩んでしまう。

「何がそんなに嬉しいんだ?」

 わからない程度ににやけたつもりなのに、彼にバレてしまったようだ。

「別に……」

 慌てて顔を引き締める。
 反対に彼は、ネクタイを緩めた。よくよく見ると、高級なスーツにピカピカの革靴。このラーメン屋さんには不似合いに思える。

「ラーメン屋さんには、よく来るんですか?」

「来た事ぐらいはある。大分昔だがな……」

 ですよね……

「ごめんなさい。付き合わせちゃって……」

 なんだか申し訳なくなって、ぺこりと頭を下げた。

「俺が連れて来たんだ、謝る事でもない。たまには、庶民的な味も悪くない」

 すみませんね、庶民に合わせて頂いて……
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