その星、輝きません!
 思わず声を上げたのだが、彼は何事も無いように車から降りてしまった。
 仕方なく、私も車から降りた。

「俺の秘書なんだろ? 文句言うな」

「ええ? 都合のいい時だけ、秘書扱いしないで下さい。でも、社長。今日みたいに、女性に声をかけられる事が多いんじゃないですか?」

「まあな…… 面倒臭い事が多い」

「いつもは、どうやって対処されるんですか?」

「直ぐ店を出るな。酒も旨くなくなるし」

 彼は、本当に嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「じゃあ、今日も直ぐに店を出れば良かったじゃないですか?」

「えっ?」

彼が、不思議そうに聞き返した。

「えっ?」

私も何を聞き返されたのか分からないので、聞き返した。

 
「ああ、良太が姉ちゃんが来るって言うから、待っていただけだ」

 あれっ? 待ってたなんて言われると、ちょっと嬉しいかも……

「じゃあ、私が行く事を知っていたんですか?」


「まあな。いつもならとっくに逃げている。 ところで、何で秘書なんだ? まあ、助かったからいいけど……」

「だって、一条さんの秘書の方、凄く素敵じゃないですか。凛々しくて、誠実そうで。一度あんな風に立ち振る舞ってみたいなあって…… ふふっ」


 我ながら今日はカッコよく振舞えたんじゃないかと、さっきのバーの事を思い出して嬉しくなる。

「何、笑っているんだ。俺は社長だぞ。秘書が凛々しいって何なんだ」

「そうかな? すごくカッコいいと思うけど……」

「はあ? どこが?」


 彼は、ずんずんと大股で歩いて行ってしまう。

「ちょっと、そんなに急いで何処に行くんですか?」

「コーヒーだ」

 彼は、目の前の深夜までやっているコーヒーショップを指さした。
 ああ。そんなに急ぐほど、コーヒーが飲みたかったのか……
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