その星、輝きません!
 もたもたしているうちに、搭乗口を過ぎてしまった。小さな空港は、すぐに飛行機の入り口だ。

「うわーーっ」

 声を上げずには居られない。飛行機の中は、夢にまで見た、ファーストクラスの座席みたいな光景が広がっている。

 口を開けたまま、ぼーっとしていると、カバンのスマホが鳴った。

「もしもし……」

 もうろうと、スマホを耳にあてる。


『姉ちゃんどうよ? 最高だろ? 楽しんで来いよ! 俺からのプレゼントだ!』

 あんたは、一銭も出してないだろ? 何がプレゼントだ、調子に乗って!
 良太の声で、これが現実だと言う事を自覚し始めた。

「ちょ、ちょっと、どういう事よ!」

 スマホに向かって叫んだが、もう通話は終了していたらしい……
 

 飛行機から降りるのは今しかないんじゃないだろうか?
 くるりと向きを変えてカバンをギュッと握りしめたが、入り口のドアは閉まっていた。

「離陸準備に入るぞ、早く座ってシートベルトしろよ」


 飛行機のエンジ音が上がりだした。やばい、慌てて近くの席に座り、シートベルトに手を伸ばした。私の手より先に、彼の手がシートベルトを掴むと、ガチャリとかけてくれた。


 そして、彼も隣りに座り、シートベルトをする。


「あ、ありがとう……」

「さあ、後はあんた次第だ」

「えっ? どういう意味ですか?」

「もう、降りる事も戻る事も出来ない。これからの時間を、文句を言ってじっと過ごすか? それとも割り切って、思いっきり楽しむか?」

 彼は首をかしげ、答えを求めるようニヤリとしてこちらを向いた。

 飛行機は、私の心境など無視して、どんどんと上昇していく。小さくなっていく街並みを窓から眺める。離陸していく感覚が好きだ。気持ちが少しずつ高揚してくるのが自分でも分かる。

 高度が安定してきたようで、エンジン音が落ち着いついてきた。

「お飲み物は何になさいますか? 朝食もご用意できますが?」

 何処から出てきたのか、キャビンクルーがおしぼりを差し出してくれた。


「遠慮しなくていい」

「あ…… じゃあ、朝食をお願いします」

 運転しながらコンビニのパンでも食べるつもりだったので、起きてから何も食べていない。しかし、呑気に朝食など頼んでいいのだろうか?


「はい。かしこまりました」


 しばらくすると、大きなテーブルが用意され、パンに卵料理やハム、サラダやフルーツが並んだ。こんな高級な朝食は旅行の時ぐらいだ。思わず、ゴクリとつばを飲み込んだ。


 私は腕を組み、彼の方を向いた。

「そうね。どうせ同じ時間なら、思いっきり楽しんでやるわ!」

 もう、どうにでもなれだ。

 彼が、ふっと笑みを漏らした。


 私は、ナイフとフォークを両手に握った。

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