その星、輝きません!
 こんなところで山下と彼女をかかわらせておくのは、癪に障る。

「遅くなってしまった…… 気を付けて帰れよ」


 俺は、彼女に微笑んだ。大人の笑みだ。


「ええ。ありがとう」


「あっ。鈴橋さん」

 またか、山下!


「連絡先を教えて頂けませんか?」

「えっ。私の?」

「はい。弟さんの急連絡先をお聞きした方が良いかと思いまして」

「えっ? 良太がお世話になっているのですか?」

 
「ええ。時々、運転手のバイトをお願いしているんです。ご存じなかったですか?」

「ええ。良太が、何も教えてくれないものですから、お礼を申し上げずに、すみません。あの子で大丈夫なんでしょうか? ご迷惑おかけしているのでは?」


「迷惑だなんて。大変助かっております。気転も利きますし、別の仕事を頼んでもすぐに対応できます。人当たりも良いですし…… 立派にお育てになりましたね」


「そ、そんな事を、言って頂けるなんて。心配な事ばかりで……」

 彼女の目が潤みだした。そして、カバンからスマホを出した。そうだ、またもや彼女の連絡先を聞きそびれてしまった。良太の緊急連絡先という手があったのか。感心している場合ではない。


「良太を雇ったのは俺だ。良太の事は、俺の方がよく分かっている」

 山下がスマホを出す前に、俺は彼女の前にスマホを出した。


「はあー」

 後ろで、山下のため息が聞こえたが知った事じゃない!


 なんとか、彼女と連絡先の交換が出来た。胸の奥が、ほっと熱くなった気がした。

「後で、連絡する」

「え、ええ」


 彼女が、ぎこちなく答える。


「社長。ロスへの出張が長くなりそうですが……」

 俺になになのか? 彼女になのか?分からないが山下が心配そうな顔を向けた。


「そうなのか?」


「はい。これから、打ち合わせをと思っておりますが、早くても一か月はかかるかと」

「そんなに!」

「アメリカ行くんですね」

 彼女が、少し遠い目をした。


「一緒に行くか? サンタモニカビーチを眺められるぞ」

 俺は、半分本気で言ったつもりだが……


「もう、何言っているんですか? お仕事でしょ。気を付けて行ってきて下さい」

 彼女は頭を下げると、出口の方へ向かって歩きだしてしまった。


 そして、もう一度振り向いた。

「楽しかったです。ありがとう」

 またもや、俺の胸の奥が熱くなった。そして、寂しいと感じた事がバレないように、俺は、彼女に向かって片手を上げた。
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