その星、輝きません!
 なんだか眠れなくて、スマホを片手にベランダに出た。ミネラルウォーターのボトルのキャップを外すと、口の中に流しこんだ。

 向き合うってどういう事なんだろうか?

 空を見上げてたが、明日は天気が悪そうだ。星が一つも出ていない。そのまま、寂しい空を見上げていると、手に持っていたスマホが震えた。


「もしもし」

 別に待っていたわけではないのに、ワンコールで出てしまった。

「俺だ。結婚しよう」

「もう。あいさつ代わりに言わないでくれます。本気なんだか? 冗談なんだか?」


「えっ? 俺は、本気でしか言ってないけど……」

「そうだったんですか?」


「今更…… 気持ちって、なかなか伝わらないものなんだな……」


「そうかもしれませんけど… 今日なんか疲れていませんか?」

 なんとなくだが、少し彼の声のトーンが低いのが気になった。


「ああ…… 今、ロスの郊外に来ているんだ。予定外の事で、夕べほとんど寝てない……」

「忙しいとは思いますが、睡眠はちゃんと取ってくださいね」


「大丈夫だ。頑張れば、早く日本に帰れる。なあ、今、外にいるのか?」

「ええ。ベランダに出てます」

「そうか。星が、見えるのか?」

「えっ? それが、今夜は曇っていて星が見えないんです。あっ。一つ見えた」

 雲の切れ間から、キラリと光が見えた。

「一つか…… また、あんたと一緒に、星が見たい」

「もう。作ったみたいなセリフが良く出ますね」

「別に、俺は思ったまでを言っただけだ」

 あまりに素直に言われて、なんだか胸の奥がぎゅっとなる。


「私に電話する時間があったら、その分休んで下さ」

「あんたと話していた方が、面白いじゃないか。」

「面白い事なんて何も言ってませんけど。ただ、呆れているだけです」

「あははっ 俺には十分だ。またな。おやすみ」


 第一印象の彼は、冷たくて表情のない人だと思った。こんなに、自然に笑う人だとは意外だった。

「何が十分なのか知りませんけど、おやすみなさい」

 通話を切ろうと、画面に指を当てた瞬間、彼の声が響いた。もう一度、スマホを耳にあてた。


「あっ。日本に戻ったら、焼き肉と生ビールな」

 何を言いたいのかと思ったら、そんな事だったのか。思わず、笑ってしまった。


「あははっ。楽しみにしてます」


 通話を切ったスマホを手に、空を見上げた。

 やはり、星は一つだけ光っていた。なんだか、必死に光っているように見えた。


 彼の存在が、少しづつ私の中で大きくなってきていた。
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