その星、輝きません!
「おい、聖一(せいいち)こっちだ」

 名前を呼ばれた方に目を向けると。父が手を上げている。

 買収するかもしれないホテルのロビーのソファーに父は座っていた。父の前に座っていたホテルのオーナーらしき人物が立ち上がった。

 二人の前に立ち頭を下げた。

 胸ポケットから名刺入れを取り出した。

 TTグループ 代表取締役社長 一条聖一  

 取り出した一枚の名刺をオーナーに渡した。


 名刺入れをもう一度,内ポケットに終おうと手を入れると、なんか違和感を感じた。

「いやー。ゲンちゃん、立派な息子さんで羨ましいよ」

 ゲンちゃんとは父の事だ。


「そうかい? こんな不愛想な男だもんで、三十五を過ぎたっていうのに嫁もおらん。どこかに、いい娘さんがいないもんかね?」


「そりゃ、こんな立派な肩書じゃ、そこらそんじゃの娘って訳にいかんでしょ」


「いやいや、こいつの性格さえ理解してくれりゃあ、なんの申し分もない」

 エ、エッヘン
 軽く咳払いをする。


「私の話は結構ですので、早速ですが、ホテルの話をお聞きしましょう」

 オーナーが先頭を歩き、ホテルの中を案内し始めた。




 一通り話を終え車に戻る。両胸を探り、溜息をついた。
 
 一応座席の下まで覗き込んだ。
 やっぱり無い。
 どこで落としたんだろうか? 昼を食べたカフェまではあったはずだ。


 取り合えず、カフェに聞いてみるか、無ければ警察か?
 
 普段なら秘書に一声かければなんとかしてくれるが、今日はいない。秘書の山下は、俺に付いて十年以上だ。俺より五つ上らしいが、仕事も出来て、信頼のおける者だ。

 だが、今日はその優秀な秘書が居ない。自分でなんとかするしかない。
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