その星、輝きません!
 カウンセリング中は、なんとか気持ちを集中させるものの、いつもスマホを握りしめ、彼からの連絡を待った。

 「鈴橋さん…… どうかされたんですか?」

 今にも消え入りそうな小さな声に、顔を上げた。
 カウンセリングが終わって、入口のドアへ向かいかけた患者さんの声だった。あまり、自分からは話をしない女性の方だ。


「えっ? ごめんなさい。ちょっと連絡とれない知り合いがいて……」

 慌てて、笑顔を作った。

 しばらく黙ってこちらを見ていた彼女が、ゆっくりと私の方へ戻ってきた。

「あの…… 心配ですよね…… 無理しないで下さい。辛いときは辛いって言っていいんですよ。そのままでいい…… 頑張る必要はない、今、出来る事をやればいい…… そう、教えてくれたのは、鈴橋さんです……」

 彼女が、精一杯伝えてくれるのが分かる。これだけの事を自分から話すのに、どれだけの力が必要だっただろうか……


「ありがとう…… 」


「いいえ。私は、私の出来る事をしただけです……」

 彼女が、細く微笑んだ。

 私は、かなり参ってしまっているのだろう。患者さんには気づかれずに、乗り切っているつもりだったのに。

「私も、私に出来る事を考えるわ」

「連絡来るといいですね……」

 いつの間にか、彼女はこんなに強くなっていたんだ。彼女は、きっと自分のペースで、自分らしく生きていくのだろう…… 

「うん」

 今度は、無理せず笑みを見せる事が出来た。


 彼女と入れ替わりに、安子さんが入ってきた。

「あの方、初めて受診したときは、ただただ泣いているだけだったのに…… 自分に出来る事をするだけ、そんな言葉が出るなんてね。鈴橋さんが一緒に悩んできたからだね。誰かが一緒に悩んでくれるって、救われるものだね」


「私は、何もしていない。彼女に力があったのよ」

「そうかもしれないけど、その力を見つけて、寄り添えたのは鈴橋さんからだよ。イケメン財布男も、きっと、鈴橋さんに、何かを見つけてもらったんだな。一緒に何かしたいと思ったんだろうな」


「そんな事ない…… 無事でさえいてくれれば……」

 目頭を両手で押さえた。


「時には、心配するしか出来ない事もある」

 肩に置かれた安子さんの手が、凄く暖かかった。
 

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